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大阪地方裁判所 昭和36年(行)18号 判決 1967年6月24日

原告 大信株式会社

被告 浪速税務署長

訴訟代理人 佐々木条吉 外四名

主文

原告の重加算税賦課処分取消請求をいずれも棄却する。

被告が原告の昭和三二年四月一日から昭和三三年三月三一日までの事業年度以降の事業年度について昭和三四年一〇月二八日付でした青色申告書提出承認の取消処分を取消す。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、双方の求めた裁判

(原告)

1、被告が原告の昭和三二年四月一日から昭和三三年三月三一日までの事業年度分についてした昭和三四年一〇月二九日付重加算税賦課処分を取消す。

2、被告が原告の昭和三三年四月一日から昭和三四年三月三一日までの事業年度分についてした同年一〇月二九日付重加算税賦課処分のうち一八万六〇〇〇円までの部分を取消す。

3、主文第二項と同旨。

4、訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

(原告)

第二、請求の原因(とくに事実上の主張としての攻撃方法・争点の特定)

一、原告は肩書地に本店を置き靴材皮革の販売を目的とするものである。原告は昭和三二年四月一日から翌三三年三月末日までの事業年度分(以下、三二年度分という。)につき、昭和三三年五月三一日被告に対し所得金額五四万六二五七円の青色申告による確定申告をし、昭和三三年四月一日から翌三四年三月末日までの事業年度分(以下三三年度分という。)につき、昭和三四年五月三〇日被告に対し所得金額八六万八五二九円の青色申告による確定申告をした。ところが、被告は原告に対し同年一〇月二八日付で三二年度分以降の事業年度分につき青色申告の承認(青色申告書提出承認。以下同じ。)を取消す旨決定し、その通知の書面に「取消の基因となつた事実が法人税法二五条八項三号に該当する。」旨附記した。ついで、被告は翌二九日付で原告に対し、(イ)三二年度分につき、所得金額四四二万四二六二円、留保所得金額一六一万五二〇〇円などとする更正処分をし、かつ重加算税八〇万八〇〇〇円の賦課処分をし、(ロ)三三年度分につき、所得金額一九九万八四三四円、留保所得金額九五万〇一〇〇円などとする更正処分をし、かつ重加算税二〇万六五〇〇円の賦課処分をした。

二、そこで、昭和三四年一一月二八日原告は青色申告の承認取消処分および各重加算税賦課処分について再調査請求をしたところ、被告は昭和三五年二月二三日付でこれを棄却し、その通知の書面に、「両年度分のたな卸除外五二二万六六七二円は、たな卸商品の一定数量を除外したものであり、原告申立のたなざらし評価損とは認められないから、重加算税適用の対象となり、かつ青色申告承認取消事由に該当する。」旨附記したものである。

三、原告は昭和三五年三月一八日大阪国税局長に対し審査請求をしたところ、同局長は昭和三六年一月九日付でこれを棄却した。その間、昭和三五年九月三〇日被告は三三年度分につき前記留保所得金額九五万〇一〇〇円、重加算税のうち二万〇五〇〇円をそれぞれ減額する旨再更正処分をした。

四、しかし、(1)原告は両年度分につき各たな卸商品の一部を隠ぺいしていないから各重加算税賦課処分は違法である。(2)原告は三二年度分の帳簿書類に取引の一部を隠ぺいしてその記載をしたものではないばかりでなく、被告は青色申告承認取消処分通知の書面に前記のような附記をしたにとどまり、取消の理由附記としては不備であるから、右取消処分は違法である。(3)、青色申告承認取消処分が違法である以上、青色申告の承認は存続しており、従つて原告会社備付帳簿書類の調査により課税標準又は欠損金額の誤りが認められないのになした両年度分の所得金額などについての更正処分もまた違法である。従つて、重加算税賦課処分も違法であることを免れないのである(なお、原告は更正処分については不服の申立をせず、更正処分は確定している。)。

そこで、原告は冒頭「請求の趣旨」記載のとおりの判決を求めるため本訴に及んだ次第である。

(被告)

第三、(被告の認否ならびに主張 とくに重加算税賦課処分、青色申告承認取消処分の要件事実ならびにそれらの法適合性などについて。)

一、(認否) 請求原因一から三までおよび更正処分が確定していることを認めるが、同四は争う。

二、(主張)

(一)(1)  原告は大阪市西成区鶴見橋通一丁目一四番地および同区西四条一丁目一一番地に各営業所を有し、実際の営業の本拠は(本店以外の)右鶴見橋営業所である。被告係官は昭和三四年一〇月一日右鶴見橋営業所で調査した際、三三年度末(昭和三四年三月末日)における総額一一八五万〇〇八七円のたな卸高を把握した。このたな卸表には、三三年度末における手持たな卸商品の全数量が記載されており、原告の選定・届出に係る最終仕入原価法によつてその評価がなされていたのであるが、その際被告係官は原告に対したな卸商品中の不良品について適正な価額で評価をした修正たな卸表の提出を求め、後日原告は総額一〇二一万二一六九円とした修正たな卸表を提出した。原告の三三年度分確定申告書には期末たな卸表の添付がなく、その添付の損益計算書、貸借対照表に表示されているたな卸高四九八万五四九七円と昭和三四年一〇月一日の調査日提出の前記たな卸表の総額一一八五万〇〇八七円および後日提出の修正たな卸表の総額一〇二一万二一六九円とを比較対照した結果、確定申告において、たな卸商品の一部数量が、少なくとも右四九八万五四九七円と一〇二一万二一六九円との差額五二二万六六七二円につき除外されていることが明らかになつた。

原告の確定申告に係る三三年度分以前四カ年分の売上金額および期末たな卸高は次のとおりであつた。すなわち、

(売上金額)   (期末たな卸高)

三〇年度分 六九、二八九千円 六、六五〇千円

三一年度分 八九、五七八   九、〇六五

三二年度分 八八、八六四   四、五八五

三三年度分 六七、六一四   四、九八五

(註・千円未満四捨五入)

三二、三三年度分の確定申告に係る期末たな卸高は、三一年度分のそれに比べて半減しており、売上金額、営業規模などから見て不合理、不自然であることも明らかとなつた。

(2)  そこで、被告は三二年度分の確定申告に係る所得八六万八五二九円の計算の基礎を追及したところ、三二年度分にもたな卸商品の一部除外・脱漏があることが明らかになつた。すなわち、

(イ) 三二年度分期首たな卸高       九、〇六五千円

(ロ) 三二、三三年度分仕入高合計     一四三、一三三(七九、九〇五+六三、二二八)

(ハ) 同右      売上高合計     一五六、四七八(八八、八六四+六七、六一四)

(ニ) 三三年度分期末たな卸高        一〇、二一二

(ホ) 売上原価((イ)+(ロ)-(ニ)) 一四一、九八五

(ヘ) (ホ)÷(ハ)により売上高に対する売上原価を算出すると、九〇、七三八パーセントとなる。

そこで、三二年度分売上原価は、

(売上金額)    (売上原価)

八八、八六四〇、〇一六円×九〇、七三八=八〇、六三三、四三一円

次に、三二年度分期末たな卸推定高は、

(期首たな卸高)    (仕入高)    (売上原価)    (期末たな卸高)

九、〇六四、八七七+七九、九〇四、五二四-八〇、六三三、四三一=八、三三五、九七〇円

従つて、三二年度分の除外たな卸高は、右八三三万五、九七〇円から原告の三二年度分確定申告書添付の損益計算書ならびに貸借対照表記載の期末たな卸高四五八万四七五六円を差引いた額三七五万一二一四円となる。

(3)  なお、前記(ホ)の算式のように、売上原価は、期首たな卸高と当期仕入高とを合算した金額より期末たな卸高を差引いた金額であるのであるが、期末たな卸高を過大に評価すると売上原価は減少して当期の利益が増加し、他方、期末たな卸高を過少に評価すると売上原価が増加して当期の利益が減少するのである。期末たな卸商品の評価は、本質的には損金の額に算入すべき売上原価の決定を左右するものである。従つて、たな卸商品の評価は、まず数量を正確に把握し、その法人の選定・届出に係る方法に従つて行なわれねばならないことはいうまでもないところである(法人税法施行規則二〇条、同施行細則一六条)。原告は、前記のようにたな卸商品の評価方法として最終仕入原価法を選定・届出しているところ、期末たな卸商品が、破損、瑕痕、たなざらし、型くずれなどのため、通常の価額で販売できないものについては、他のたな卸商品と分別経理し、処分可能額によつて個別的に評価できるのであるが、その評価損は原則として株主総会の承認決議を得た金額に限られるのであつて、株主総会に提出される損益計算書の損失の欄に計上されていなければならないことはいうまでもないところである。しかるに、原告は損益計算書に評価損の計上をしていない。従つて、原告がたな卸商品の一部の除外をしたことは明瞭である。

(二)、以上、被告は、本件各種加算税賦課処分をするに至つた経緯とともに、原告がたな卸商品の一部を除外して、所得の金額の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺいした事実を述べたものであるが、右除外事実は次の諸事情によつて肯定されるべきである。

(1)、原告は、三三年度分の貸借対照表および損益計算書には、期末のたな卸高として四九八万五四九七円だけを掲げておきながら、翌三四年度分の営業用として、これとは別に一一八五万〇〇八七円にのぼる期首たな卸商品の明細書を作成し、そのたな卸高を基礎にして同年度分の営業利益を計算していた(乙第一二号証の計算書)。又、原告が、被告係官のした税務調査当時、原告が三三年度分の営業利益について作成、所持していた、乙第一二号証の計算書と同様式の計算書(乙第三号証の計算書に書きかえる以前のもの)にも、三三年度末のたな卸高は、一一六〇万円くらいと記載していた。

(2)、原告主張の三二年度末たな卸商品明細(別紙第一目録)および三三年度末たな卸商品明細(別紙第二目録)には、原告備付の甲第五号証、第六号証の各商品出納帳と対比すると、それぞれ別紙第三目録および第四目録記載のような仕入単価の相違があり、その相違は単なる移記の誤りとは見られない。とすると、前記たな卸商品明細書(総額一一八五万〇〇八七円)は、最終仕入原価法によつたものではなく、時価評価を表示したものと考えられる。

(3)、原告の経理担当者川賀一雄は、前記調査日被告係官に対し、たな卸商品を圧縮したことを自認し、調査日の後に前記修正たな卸表(総額一〇二一万二一六九円)および乙第三号証の計算書(総額一〇三五万〇〇九七円)を被告に提出した。原告は修正たな卸表記載のたな卸高を基礎にして、三四年度中間決算および(確定)決定をしているし、更正処分自体については不服申立をしていないのである。

(4)、原告がそれぞれ三二年度末および三三年度末たな卸商品明細であるという別紙第一および第二目録ならびに三二年度および三三年度の原告備付に係る各商品出納帳によると、別紙第五、第六目録記載のように、三二年度に評価減をしながら、重ねて同一商品について三三年に評価減をしている(二重評価減)ことが認められる。

(三)、原告は、確定申告に係る各「期末たな卸高」と原告主張の別紙第一、第二目録記載の「たな卸商品明細」との相違は、評価減の有無(後者の商品について評価減をしたものが前者)によるものと主張する(後記第三、一、(1)、(2)、(3))。しかし評価減をなし得る商品の破損等(原告のいわゆる年季物)の事実は存しない。すなわち、

(1)、原告は、「たなざらし、流行遅れ、品質低下など」の年季物が存したと主張するけれども、天災、火災など特別の事故でもない限り、最終仕入原価法による評価額の六割もの評価損が生ずることはあり得ないし、原告は確定申告に際し事業概況説明書に「たなざらし等は、多少はどうしてもある。その一部は期中に処分し、一部在庫している」とだけ記載しており、六割もの年季物が生じたということはできない。

(2)、別紙第一、第二目録をみても、ほとんど全品目(ことに第二目録)の、全数量について評価損が行なわれており、たなざらしによる評価減としては、不自然である。

(3)、原告備付の商品出納帳の表紙や末尾は前記調査日以後に作成されたものである。

(4)、原告が、調査日以後に、審査請求過程において作成した評価損明細書(乙第七号証の二)によつても、評価損は一六一万四五九〇円をこえないのであつて、原告主張の評価損六八六万四五九〇円は納得できない。

(5)、前記最終仕入原価法は比較的に時価法に近い評価方法であるから、たとえ原告が市価変動による評価減をしたとしても、そのたな卸高と大差はないはずである。

(6)、原告は期末に仕入れた商品について、仕入と同じ日に評価減をしたように商品出納帳に記載しており、不合理なものというほかはない。

(四)、本件重加算税賦課処分は、前記更正処分がなされたことを前提とするところ、右更正処分は適法である。すなわち、調査に際し被告は原告の総勘定元帳、金銭出納帳、銀行簿、商品出納簿などの会計帳簿ならびにたな卸表を調査・検討した結果、本件更正処分をしたものである。従つてたとえ原告に対する本件青色申告承認取消処分が附記理由の不備により取消されるべきものであるとしても、本件更正処分は適法である。

(五)、本件青色申告承認取消処分の通知書の取消理由の附記が原告主張のような文言であることを争わないことは前記のとおりである。しかし(旧)法人税法二五条九項後段には、「前項の規定による承認の取消の通知をするときは、当該通知の書面にその取消の基因となつた事実が同項各号のいずれに該当するかを附記しなければならない」旨規定されていたのであり、「事実を附記しなければならない」とは定められておらず、法は取消の基因となつた事実そのものを具体的に記載することを要求していたのではない。又、実際上、納税者は調査過程および不服申立過程において課税庁側と接渉しており、おのずから、取消の基因となつた事実を具体的に知り得るのであつて、法は当該事実を具体的に記載することを要求していないと解すべきである。

(原告)

第四、原告の反論

一(1)  (三三年度分について。)原告は昭和三四年五月三〇日三三年度分について法人税の確定申告をするに当り、期末たな卸商品明細書(総額一一八五万〇〇八七円)を添付して確定申告書を提出した。同年一〇月一日被告係官が調査のため原告の営業所に来たが、同日は詳細な調査を行なわず、かつすでに前記期末たな卸商品明細書が被告に提出されているにもかかわらず、同月五日三三年度末の在庫商品全部について、過去に評価減がなされなかつたものとして、原告の選定・届出に係る最終仕入原価法によるたな卸商品明細表を作成するよう指示した。そこで原告は備付に係る商品出納帳を基礎として期末たな卸商品明細書(総額一一八五万〇〇八七円)を作成したところ、同月二〇日頃被告係官は評価損一五〇万円程度を適宜按配したいわゆる「修正たな卸表」(乙第一号証)の作成を指示した。原告はもつぱら指示に従つて総額一〇二一万二一六九円の修正たな卸表を作成して提出したのである。ところが意外にも、これが被告のしたたな卸商品の一部除外、隠ぺいの事実認定の資料とされたのである。

原告は、三三年度分について備付に係る商品出納帳に基づいて、最終仕入原価法による帳簿上の期末たな却をしたところ、別紙第二目録記載のとおりその総額は一一八五万〇〇八七円となつた。そして原告は同時に実地たな卸を行なつた結果、いわゆる年季物(原告は「たな卸資産で破損、瑕痕、棚ざらし、型くずれ等のため通常の価額で販売できないもの又は通常の方法では使用に堪えないものについては、他のたな卸資産と分別経理し、自己の選定した評価方法によらないで処分可能額をもつて評価することができるものとする。」旨の昭和二五年九月二五日国税庁長官法人税取扱通達一八七項に従つている。)が存したので、当該たな卸商品を処分可能額まで評価減し、三三年度期末(昭和三四年三月末日)たな卸商品の総額を四九八万五四九七円と評価した。従つて評価損金額は六八六万四五九〇円となつた。ところが、経理担当者が前年度たる三二年度末に評価減した商品が、なお三三年度末にも残存しているものと誤解し、前記たな卸総額一一八五万〇〇八七円および評価損金額六八六万四五九〇円よりそれぞれ三二年度末評価損金額五二五万円(後記(2))を控除した結果、商品出納帳末尾に「三四・三・三一 棚卸六六〇〇、〇八七円 評価損一六一四、五九〇円 差引四、九八五、四九七円」と記入し、他方、昭和三四年三月三一日付振替伝票によつて、借方「期末商品四、九八五、四九七円」、貸方「期末棚卸商品高四、九八五、四九七円」と仕訳し、「棚卸六、六〇〇、〇八七円内一、六一四、五九〇円年季物不良評価損する。差引四、九八五、四九七円」と註記し、これより総勘定元帳当該科目欄に転記し、決算手続を経て、貸借対照表の借方欄に「商品四、九八五、四九七円」、損益計算書の利益欄に「期末棚卸高四、九八五、四九七円」と記載したものであり、従つて前記評価損六八六万四五九〇円を損益計算書の損失欄に計上しなかつたのである。

(2)  (三二年度分について。)原告は、三二年度分について、備付に係る商品出納帳に基づいて、最終仕入原価法による帳簿上の期末たな卸をしたところ、別紙第一目録記載のとおりその総額は九八三万四七五六円となつた。そして原告は同時に実地たな卸を行なつた結果、いわゆる年季物(原告は前記通達に従つている。)が存したので、当該たな卸商品を処分可能額まで評価減し、三二年度期末(昭和三三年三月末日)たな卸商品の総額を四五八万四七五六円と評価した。従つて評価損は五二五万円となつた。そして原告の経理担当者は、商品出納帳末尾に「三三・三・三一 棚卸九、八三四、七五六円 評価損五、二五〇、〇〇〇円 差引四、五八四、七五六円」と記入し、他方、昭和三三年三月三一日付振替伝票によつて、借方「期末商品四、五八四、七五六円」、貸方「期末棚却商品高四、五八四、七五六円」と仕訳し、「棚卸九、八三四、七五六円内五、二五〇、〇〇〇円長年の年季物不良品評価損する。差引四、五八四、七五六円」と註記し、前記同様決算手続を経て、貸借対照表の借方欄に「商品四、五八四、七五六円」、損益計算書の利益欄に「期末棚卸高四、五八四、七五六円」と記載したものであり、従つて前記評価損五二五万円を損益計算書の損失欄に計上しなかつたのである。

(3)  法人の所得は、総益金から総損金を控除した金額であるが、損金の額に売上原価が算入されるべきところ、

期首たな卸高+仕入高-期末たな卸高=売上原価

の関係があるから、売上原価を算定するため、法人の選定・届出に係るたな卸資産評価方法によつて期末たな卸高を評価しなければならないのである。他方、法はたな卸資産について当該事業年度末における価額を限度として、評価損を損金の額に算入することを認めている(法人税法施行規則一七条の二)。評価減をする場合の評価は、法人の自主的判断に任されていると解すべきであり、もしその判断が不当であるときは、政府において税務計算上これを是正する(同一七条の二)ことができるのであつて、価値判断の不当をもつて、所得の金額の計算の基礎となるべき事実自体の隠ぺい又は仮装であるということはできない。

要するに、原告は両年度分において、たな卸商品の数量全部について最終仕入原価法によつてたな卸商品の評価を行なつたうえ、別個にそのうちのいわゆる年季物について、評価減をしたものであり、たな卸商品の一部数量を除外して所得の金額の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいしたことはない。

(4)  原告の三二年度末および三三年度末の各たな卸商品の数量、その最終仕入原価はそれぞれ別紙第一および第二目録記載のとおりであるが、原告の備付に係る三二年度および三三年度各商品出納帳に記載されている右数量、最終仕入原価が被告主張のとおりであること、すなわち別紙第三、第四目録記載のとおりであることは認める(ただし、同第三目録二枚目上から九行目の「二七〇」は「二〇〇」の誤記、同第四目録五枚目上から二枚目「二五円二八」は「二五円五〇」の誤記と認める。)。従つて、第一、第二目録の仕入価格と商品出納帳のそれとに差異があることを認めるのであるが、それは商品出納帳にそれを記入した後に値引があつたためである。次に、原告は、被告主張のような、すなわち別紙第五、第六目録記載のような二重評価減をしていない。

二、青色申告承認取消の通知の書面には、取消の基因となつた事実を明確に特定して附記しなければならない。取消理由として単に該当法条を記載するだけでなく、いかなる事実を該法条に該当するものと認定したかが分るような具体的事実を取消通知の書面に附記しなければならないというべきである。従つて本件取消通知の書面の附記は理由不備を免れない。

第五、(証拠関係)<省略>

理由

一、請求の原因一から三までならびに原告がその主張の三二年度および三三年度の各更正処分(被告は後に三三年度の更正処分につき一部減額の更正処分をした。)について不服申立をせず、これが確定したことは当事者間に争がない。

二、成立に争のない甲第二号証、第三号証の一から三まで、第四号証、第五、第六号証の各一から三まで、第七号証、第八号証の一から三まで、乙第一号証から第三号証まで、第四号証の一、二、第五号証、第六号証の一、二、第九号証、第一〇、第一一号証の各一、二、第一二号証、証人川賀一雄(一部)および津田奈良雄の各証言を総合すると次の事実が認められる。

(一)、(三三年度分) 原告経理担当者川賀一雄(以下川賀という。)は、昭和三四年四月頃原告の選定・届出に係る最終仕入原価法によつて期末在庫商品全部につき、三三年度末たな卸商品の評価を行ない、その総額は一一八五万〇〇八七円となつた。他方、川賀および原告従業員はその実地たな卸を行なつたのであるが、浪速税務署管内の同業者等ならびに原告の昭和三〇年、三一年の従前の事業年度分と同程度の変色、ひび割れなどの破損等があり、金額の面において、取得価額の平均一割程度の評価損が存在した。にもかかわらず川賀は帳簿上前示たな卸高一一八五万〇〇八七円の約五割八分強に当る六八六万四五九〇円の評価損があるとした。そして川賀は右たな卸総額一一八五万〇〇八七円から評価損の金額六八六万四五九〇円を控除した金額四九八万五四九七円をもつて三三年度末たな卸総額であるとして、貸借対照表の借方欄に「商品四、九八五、四九七円」と、損益計算書の利益欄に「期末棚卸高四、九八五、四九七円」と掲記・計上した(右評価損の適否は株主の利害に関する重要な事項であるが、(弁論の全趣旨によると、原告代表取締役は右計算書類を株主総会に提出して承認決議を得たものと認められる。従つて評価損六八六万四五九〇円の承認決議を得ていないというべきである。)ついで原告は昭和三四年五月三〇日三三年度分法人税確定申告書を被告に提出するに当り、右貸借対照表および損益計算書を添付、提出し、青色申告による所得金額八六万八五二九円の確定申告をした。その際、原告はたな卸高一一八五万〇〇八七円のたな卸商品明細書を被告に提出しなかつた。同年一〇月一日浪速税務署法人税係津田奈良雄(以下津田という。)はその調査のため原告の鶴見橋営業所に出向き、総額一一八五万〇〇八七円の期末たな卸明細書を見て、適正な評価減をするよう指示した結果、その後間もなく原告は総額一〇二一万二一六九円のいわゆる修正たな卸表を被告は提出した。

(二)、(三二年度) 川賀は、昭和三三年四月頃前示最終仕入原価法によつて期末在庫商品全部につき、三二年度末たな卸商品評価を行ない、その総額は九八三万四七五六円となつた。他方、川賀はその実地たな卸を行なつたのであるが、前同様、金額の面において、取得価額の平均約一割の評価損が存在した。にもかかわらず川賀は帳簿上前示たな卸高九八三万四七五六円の五割三分強に当る金額五二五万円の評価損があるとした。そして川賀は右たな卸総額九八三万四七五六円から評価損の金額五二五万円を控除した金額四五八万四七五六円をもつて三二年度末たな卸総額であるとして、貸借対照表の借方欄に「商品四、五八四、七五六円」、損益計算書の利益欄に「期末棚卸高四、五八四、七五六円」と掲記・計上した(前同様、原告代表取締役は右計算書類を株主総会に提出して承認決議を得たものと認められる。従つて評価損五二五万円の承認決議を得ていないというべきである。)。ついで原告は昭和三三年五月末日三二年度分法人税確定申告書を被告に提出するに当り、これに右貸借対照表および損益計算書ならびに総額四五八万四七五六円の期末たな卸商品明細書等を添付、提出し、青色申告による所得金額五四万六二五七円の確定申告をした。

以上の事実が認められる。証人川賀一雄の証言中認定に反する部分は信用できない。他に右認定を左右するに足りる資料はない。

三、原告は、三二年度末および三三年度末の各たな卸商品明細(品名、数量、仕入価額、時価、差引評価損)は、それぞれ別紙第一および第二目録のとおりであると主張するので検討する。

前記川賀一雄(一部)、津田奈良雄の証言ならびに別紙第一、第二目録記載自体によると、別紙第一、第二目録の各たな卸商品明細書は本件係争の三二年、三三年度期末頃に作成されたものではなく、川賀が昭和三八年か三九年中に作成したものであり、作成当時の時価を記載したものも含まれている。二カ年か三カ年中には格別、一カ年中には商品の著るしい時価の変動はなかつた。実地たな卸を行なつた際の記録が残されていない。別紙第一目録では、時価を零にした商品以外はほとんど仕入価額と時価とが等しい。他方、別紙第二目録では、評価減をした商品(それを零としたものを除く。)については時価を仕入価額の半額以下として画一的な記載をしたものが多数ある。他の同業者および原告の係争年度の前年度までの年度のたな卸と比較して評価損の金額が全体的に著るしく過大である。商品の破損等の程度は従前の年度とあまり変化がなかつたことが認められる。前記川賀一雄の証言中原告の右主張にそう部分は信用できない。

原告の右主張は採用できない。

四、叙上認定によると、次のように認められる。すなわち、

原告は、たな卸商品の著るしい破損等の事実がないのにあるものとして、三三年度末のたな卸商品の評価損の金額を六八六万四五九〇円と算出し、三二年度末のたな卸商品の評価損の金額を五二五万円と算出して、故意にいずれも真実の評価額(前示認定のように各たな卸高の約一割)のほぼ四倍(前示五割八分ないし五割三分から一割を差引くと四強の数字が出る。)に当る不実の評価損があたかも実在するかのように作為した。さらに原告は三三年度分および三二年度分の各貸借対照表・損益計算書において、三三年度分につきたな卸高一一八五万〇〇八七円から評価損の金額六八六万四五九〇円を控除した金額四九八万五四九七円を期末たな卸高であるとして掲記・計上し、三二年度分につきたな卸高九八三万四七五六円から評価損の金額五二五万円を控除した金額四五八万四七五六円を期末たな卸高であるとして掲記・計上したものである。以上のように認めるべきである。

五、してみると、前示計算書類に掲記・計上に係るそれぞれのたな卸高は、真実のもののほぼ四倍にのぼる不実の評価損金額の限度において、真実のたな卸高の金額を除外したものといわねばならない(本来、損益計算書においては、利益の欄に期末商品たな卸高を、損失の欄に評価損金額を期首たな卸高および期中仕入高とともに、それぞれ記載・計上すべきである((期首たな卸高と当期仕入高とを合算した金額から期末たな卸高を控除した金額すなわち売上原価、ならびに評価損の金額は、いずれも当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入すべきものである。))が、このような本来の記載・計上の仕方を採らず、評価損の金額を損失の欄に記載・計上せずに、利益の欄に記載・計上すべき期末たな卸高から真実の評価損の金額を控除した金額を期末たな卸高であるとして利益の欄に記載・計上しても、結果においては計算上所得の金額自体に差異は生じないわけである。けれども、控除した評価損の金額に不実の金額が含まれている限り、当該不実の金額の限度において、不実の評価損の金額を損失の欄に記載・計上した場合と同様に、所得の金額は過少となる)。

期末たな卸商品の実地たな卸を行なう際、個々的に商品が破損等していると認められるときは、破損等に係る当該商品の処分可能価額、つまりもしそれを売却するならば決めるであろう売買の要件事実たる代金の額に従つて評価減をするのであるから、商品の破損等が「事実」であることはもちろん、評価損の金額は「事実」である。たな卸商品の評価額(原告は最終仕入原価法によつている。)もまた「事実」である。

とすると、原告は三三年度分および三二年度分の法人税確定申告をするに当り、故意に、たな卸商品に著るしい破損等の事実がないのにあるものとして金額の面において一部不実の評価損を算出したうえ、確定申告書添付の損益計算書等に、その不実の金額の限度で過少のたな卸高を記載・計上し(その結果、売上原価が真実に反して過大となり、所得が過少となつた。) たものであるから、原告はたな卸高(金額)の一部を除外したものであつて、所得の金額の計算の基礎となるべき事実を故意に隠ぺいしたものといわなければならない。

そして、原告主張のような各更正処分がなされていることは、前示のとおりであるから、本件各重加算税賦課処分は適法であるといわねばならない。

原告は、本件青色申告承認の取消処分が違法である以上、前示各更正処分は違法であり、従つて本件各重加算税賦課処分もまた違法であると主張する。

しかし、前示各更正処分がすでに確定していることは前示のとおりであつて、原告はもはやその違法性を主張してこれが取消を訴求することはできないのであるから、本件青色申告承認の取消処分は後記のように違法であるけれども、そのため本件重加算税賦課処分が違法であるということはできない。原告の右主張は採用できない。

六、(青色申告の承認取消処分通知の書面の附記について。)

昭和三四年一〇月二八日付の本件青色申告の承認取消処分通知の書面に、「取消の基因となつた事実が法人税法二五条八項三号に該当する。」旨附記されていることは、当事者間に争がない。

昭和三四年法律第八〇号(同年四月一日施行)による改正に係る法人税法二五条九項後段に、「………当該通知の書面にその取消の基因となつた事実が同項(註・法二五条八項)各号のいずれに該当するかを附記しなければならない。」旨規定されている。この立法趣旨は、青色申告の承認を受けている納税義務者はその承認の取消によつていわゆる「青色申告の特典」を奪われるのであるから、課税庁が承認取消の要件事実を特定・明記した書面自体をもつて、納税義務者に当該要件事実を知らせることによつて、取消の妥当公正を担保するにあるものと解するべく、従つて当該要件事実を納税義務者が推知し得る程度の記載(附記)では足りないといわねばならない。これを本件について考えてみるに、前示附記には、「………法人税法二五条八項三号に該当する。」とあるだけであつて、原告のどのような帳簿書類にどのような取引のどのような不実の記載があるかを概括的にすら明記していないのである。前示通知の書面には法の要求する附記がないものというほかはない。本件青色申告の承認取消処分は違法であるといわねばならない。

七、(結論)

してみると、本件各重加算税賦課処分の取消を求める原告の請求は理由がないから、これを棄却するべく、本件青色申告の承認取消処分の取消を求める原告の請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について民訴法九二条八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 山内敏彦 高橋欣一 高升五十雄)

(別紙目録省略)

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